連合「第19回定期大会」
令和7年10月7日、石破総理は、都内で開催された日本労働組合総連合会(連合)「第19回定期大会」に出席しました。
総理は挨拶で次のように述べました。
「内閣総理大臣でございます。なんか政党演説会みたいになってきましたが、第19回定期大会であります。盛大に開催されることを、お慶(よろこ)び申し上げたいと存じます。なるべく祝辞っぽく言いたいと思っております。
私どもの内閣は、『賃上げこそが成長戦略の要』ということで、物価上昇に負けない賃金上昇ということを実現するために取り組んでまいりました。
芳野会長を始め、連合の皆様方には、様々な場面で多大な御協力を頂きましたし、なんと16年ぶりということになりますが、この4月には『政労会見』というものを開かせていただきました。ここにおきまして、地方や中小企業、現場の実情につきまして、直接貴重なお話を承ることができたということはとてもありがたいことでございました。
このような中で、今年の春季労使交渉での賃上げは、33年ぶりということになりますが、高い水準となりました昨年これを更に上回る5.25パーセントということになりました。賃上げは33年ぶりの去年を上回る5.25ということですし、16年ぶりに政労会見も開かれました。
組合のない労働者の方々も大勢いらっしゃいます。そういう方々にも適用される最低賃金につきましては、今年度、全国加重平均で1,121円、引上げ額は過去最大の66円、率にして6.3パーセントということであります。賃金水準の低い13県、ここにおきましては8.0パーセントという大幅な賃上げになりましたので、地域間格差の縮小にも寄与するものであります。
賃上げはおそらく、大きくその潮目が変わりつつあるんだというふうに思っております。閣議決定をいたしました『骨太方針2025』に基づきまして、物価上昇を1パーセント上回る物価上昇ノルム(社会通念)これを定着させたいというふうに考えております。賃上げのためにご尽力いただいております中小企業・小規模事業者の皆様方にきめの細かい支援をお届けしたいと思っています。
これは赤澤大臣がよく言うことでございますが、最低賃金の近傍、要は近くそれで暮らしておられる方々が、660万人おられるということが私どもは強く認識をいたしておるところでございます。こういう方々に、もっと高い賃金というものを出していくという話をしますと、いやいやお前わかってんのか現場は、防衛的賃上げみたいなことをやってると会社は持たないぞ、みたいなお話を承らないわけではございません。ただ、じゃあ今のままでいってどうなるんだと、いうことでございます。どのようにして賃上げを実現していくかということは、誰のどのような政権になりましょうとも実現をしていかねばならないことだと思っております。今のままいってどうなるのということであります。
我が国におきましては賃上げと並びます最重要課題は人口減少への対応です。これは何度も私は申し上げてまいりましたが、今が2025年ですが、このままの傾向が続くとして、2100年になると日本人は半分になる。200年経つと10分の1になる。300年経つと423万人になるんだそうで、30分の1です。それは成り立つのかということでございます。
人口減少は出生率の低下も相まって、ものすごい勢いで加速をしていますので、今申し上げました数字はもっと早いのかもしれません。私どもとして『地方創生2.0』というのは、何もおまじないを言っているわけではなくて、若い方々、女性の方々にどうしたら地方を選んでいただけるかということでございます。
それは全国47都道府県、1718市町村でしたか、ございます。それぞれにおいて事情は違います。私が10年前に地方創生大臣をしておりましたときに、産官学金労言という、これまたおまじないみたいな話をしておりましたが、産官学金労言、つまり産業界、官というのは市役所とか役場、学というのは大学だけではない、高校も中学校も入れて、中学生の上手にパソコンを使ったりしますので、産官学金の金というのは金融機関でございます。労というのはまさしく労働組合であって、産官学金労、言というのは地元の新聞、地元のテレビということでございます。地方創生というのは、やりっ放しの行政、頼りっぱなしの民間、全然無関心の市民、これが三位一体になると絶対失敗することになっております。やりっ放しの行政、頼りっぱなしの民間、全然無関心の市民、こういうものが三位一体にならないように、いかにして地方のそれぞれの問題を解決していくかということにおいて、労働組合の皆様方にお願いせねばならんことはたくさんございます。
アンコンシャス・バイアスという話はあんまり人口に膾炙しておりませんが、要は無意識の思い込み、男性はこうあるべきだ、女性はこうあるべきだという無意識の思い込み、偏見。これは今なお牢固として残っております。これをどう解消するか、そして共働きと共育て、これを進めることが大事であります。ジェンダーギャップの解消も極めて重要であって、先般、韓国の大統領ともこの話は随分突っ込んでしたところでございますが、OECD加盟国のうち、我が国は男女の賃金格差は3番目に大きいということでございます。そして、女性の管理職の登用が日本の場合に14パーセントだと思いますが、北欧あるいはアメリカ等々、女性の管理職の登用は40パーセントとなっております。この持てる力、地方であり、女性であり、中小企業であり、この持てる力を最大限に引き出すということが我が国にとって絶対に必要なことだと考えておるところでございます。
そして、今なお4割の方々は非正規雇用でございます。少し前までは、その所得は正規労働者の6割と言われたものですが、今7割弱まで上がってまいりました。この方々の正規雇用への転換、初めて4割を超えた男性の育児休業制度の更なる促進、このような課題がございます。労組の皆様方におかれましても、さらに積極的にこれらの取組にご参画をいただきたいと考えております。
戦前1906年、まだ明治の時代かもしれません。倉敷紡績という会社がございまして、この社長になられて、その後、現在のクラレを創業された大原孫三郎(まごさぶろう)さんという実業家がおられましたが、この方が優れたのが『労働理想主義』というものでございました。『従業員の幸福なくして事業の繁栄はない』このように訴えたのであります。当時は女工さんというか、要は女子従業員の方々の労働環境は非常に厳しかったのでありまして、その時代に、もう100年以上前の話ですが、『従業員の幸福なくして事業の繁栄はない』ということを唱えながら業績を伸ばしたということがございました。
私は三島由紀夫という小説家がすごい好きで、学生の頃からよく読んでいたのですが、『絹と明察』という小説を御存じの方もあるかもしれません。昭和30年代の小説です。1954年、昭和29年に、近江絹糸の労働争議というのがありました。ここは初めての人権争議というものでございました。この争議において、女子従業員の方々が外出、結婚、教育の自由がないというような労務管理が行われとったわけでありますが、この是正、そういう方々の待遇改善、そういうものを組合が求めて全面的に勝利したというのを描いておるのが、三島の『絹と明察』という小説でございます。新潮文庫で出ていますから、どうぞお暇があればお読みください。
昔の話だよと、今は関係ないんだよと、いうことかもしれません。ですけれども、私は昭和54年に学校を出て、とある銀行に入りましたが、高校に入ったのは昭和47年のことでございました。ストライキのピークは1974年、昭和49年です。私、高校3年生でした。そのときにストライキというのは5,200件あったんだそうです。参加した人は362万人いたんだそうです。1週間学校休みになりました。じゃ、直近去年2020年はどうであったかというと、ストライキは何件があったか、27件です。全国で、ピークの0.5パーセント。ストライキに参加した人は何人だったか、935人。ピークの0.03パーセントということであります。
それはそれでいいことだと、いろいろな労使の脅威というのがあって、ストライキとかそういう手段に訴えなくても、いろいろなことが改善していく、社会生活もきちんと安定する、それはそれですばらしいことでありますが、日本国憲法に団結権、団体交渉権、団体行動権、労働三権というのが明記をされておるわけでございまして、これが労働者の大切な権利であるということは何ら変わりはございません。
雇用は守られても、コストカット型の経済が長く続くということが続いてまいりました。これを転換して、高付加価値創出型経済の実現をどう図るかということは、変わらぬ必要なことだと信じております。労働者の権利を守り、その福祉の向上を図る労働組合の役割は極めて重要であります。人材稀少社会でございます。その中にあって、働く人一人一人をどうやって大事にしていくかということ、そして未組織と労働者もどのようにして大事にしていくかということを考えていかなければなりません。
しかし、50年に学校を出て会社に入りました。お前の代わりは幾らだっているんだって何度言われたことか。今、お前の代わりなんかどこにもいない。人材希少時代というのはそういうことであります。額に汗して働く方々が、明日の心配がない暮らし、これを実感していかねばなりません。
聞いていないだろうと思って、野田さんがさっき演説をしておられましたが、聞いていました。そこで中間層は大事だよというお話をなさっていました。中間層が少なくなるというのはどういうことなんだろうか。それは社会が不安定になるということです。それを我々は政党がどうとかいう話ではない、どうやって社会を安定するかということのために、私共も、労組の皆様方も、共に力を合わせたいと思っております。
会社は経営者や株主だけのものではございません。従業員のものであり、家族の問題であり、地域のものであります。その実現のために、私共も本当に立場を超えて連帯をしてまいりたい、かように思っております。最初に言ったのと違って、演説をしました。ごめんなさい、御容赦を賜りまして、益々の御発展をお祈りして御挨拶を終わります。ありがとうございました。」
出典:首相官邸ホームページ(当該ページのURL)