ホンダ、燃料電池車の生産計画を大幅見直し
ホンダ栃木県真岡市で計画していた次世代燃料電池(FC)モジュール専用工場の事業計画を大幅に見直すと発表した。当初2027年度の稼働を目指し、年間3万基の生産能力を掲げていたが、世界的な水素市場の環境変化や需要の鈍化を受けて、生産能力を2万基未満に下方修正し、稼働開始時期も延期することとなった。
この工場は、経済産業省の「GX(グリーントランスフォーメーション)サプライチェーン構築支援事業」に採択されていたが、今回の計画見直しにより、公募要件である「年産2万基」「2027年度稼働開始」に適合しなくなったため、同事業への採択も辞退する。ホンダはこれまで、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、水素技術や燃料電池の研究開発を30年以上にわたり推進してきたが、世界的な市場環境の変化に直面し、事業戦略の再考を迫られている。
今回の見直しは、単なる一工場の問題にとどまらない。ホンダはこれまで、2030年に電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)の販売比率を3割に引き上げる目標を掲げていた。しかし、EVの世界的な普及が想定よりも鈍化していること、そして水素インフラの整備やコスト面での課題が依然として大きいことから、2025年5月の「ビジネスアップデート」では、EVとFCVの販売比率目標を2割程度に下方修正し、当面はハイブリッド車(HV)に注力する方針を明確にした。
次世代車戦略の転換点と今後の展望
ホンダの燃料電池車戦略は、今回の計画見直しによって大きな転換点を迎えている。世界的に水素市場の成長が期待されたものの、コスト高やインフラ整備の遅れ、商用車・大型車向け需要の限定的な伸びなどが影響し、需要予測が厳しくなっている。特に、商用車や定置用発電機、建設機械などの分野での水素利用拡大を目指していたが、現時点では市場の成長スピードが想定を下回っている。
ホンダは今後も、燃料電池自動車(FCEV)、商用車、定置用発電機、建設機械の4分野を軸に水素事業の拡大を目指す姿勢を崩していない。しかし、短中期的にはハイブリッド車の開発・販売強化にシフトし、市場の動向を見極めながら、将来的な電動化への布石を打つ構えだ。
また、世界の自動車メーカー各社も同様に、EVやFCVの普及ペースに合わせて柔軟な戦略転換を進めている。トヨタや日産もハイブリッド車やプラグインハイブリッド車(PHEV)を主力に据え、インフラや電池技術の進化を待ちながら段階的な電動化を進めている。
ホンダの今回の決断は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた長期的な目標は維持しつつも、現実的な市場環境や技術進化のスピードを見据えた柔軟な対応の一例といえる。今後は、燃料電池や水素技術の研究開発を継続しつつ、ハイブリッド車や新たな電動車技術とのバランスを取りながら、持続可能なモビリティ社会の実現を目指す姿勢が問われることになる。